ソーシャル・イメージングとは?
社会的行動や関係性を、顕在化し明示する最先端技術
そのままでは見ることのできない生体の機能・挙動を可視化する技術が「イメージング」です.例えば医学においては,脳機能を画像化する「ブレイン・イメージング」が代表的です.また近年,センサ技術の向上により,実世界における人間行動の計測や分析に関する研究が進展し,この中で,一人称視点計測も含めた新しい計算論的行動科学として「ビヘイビア・イメージング(Behavior Imaging)」が提唱され,商用のソフトウェアが出て来ていますが,これは主に映像を利用した個人を主体とする新しいイメージング技術であると言えます.これに対し本研究は,画像計測だけでなく,装着型機器を利用することで,複数人による相互作用行動(グループダイナミクス)とそれにより生じる情動に関する身体・生理信号を活用し,表情・情動状態,及び対人交流とその意図を顕在化し明示する新しい技術を「ソーシャル・イメージング」として位置づけています.また,計測した社会的行動データは,生理・認知・行動特性からなるパーソナルデータとして知的情報処理システムに蓄積していきます.
ここでは,社会性機能障害のある自閉症児について長期縦断的に社会機能を支援し,その効果を定量的に評価することを目指します.68名に1名(米国2012年)という高い割合で見られる自閉症児への発達支援方法の確立は,極めて高い社会的要請があります.自閉症児は,幼児期より対人交流や顔・表情認知と表出に障害を示すことが知られています.このような背景の下,自閉症児の発達心理研究では,英米を中心に早期からの対人相互作用支援が注目されています.しかしながら,表情,対人コミュニケーションに対する動機づけ,他人への身体接触などの個別的な行動特性が数多く報告されていますが,日常生活や学校においてこれらを定量的に計測することは容易でないため,客観的な評価が難しいだけでなく,適切な支援によりどの機能がどのように改善するかという詳細な分析がほとんど実証されていません.
このような小児らの行動を理解するためには,個々の脳の器質的・機能的特性を明らかにするブレイン・イメージングや,個人の行動を把握するためのビヘイビア・イメージングのみでは不十分であり,社会的行動の理解の深化を目指すソーシャル・イメージングが必要とされます.ここでは,特に自閉症児の発達支援法の確立を目指し,彼らの行動をより深く理解すること,また,早期対人相互作用の発達を明らかにすることは,その後の共同注意・模倣・言語理解・言語表出・コミュニケーションの獲得の理解にとっても大きな意義を持ちます.
本研究は,自閉症児の能力を最大限に発揮できる環境条件を明らかにすると同時に,認知・言語機能を含めた全体的な創造性と社会性を形成する包括的な発達支援方法の構築を目指しています.また,効果の実証されたエビデンス・ベースド発達支援法を現場で適用しながら早期集中療育を展開するという社会実装を目指します.